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		<title>物書き昭和堂</title>
		<link>http://ginyushijin.dtiblog.com/</link>
		<description>次回はぱっどさんの公募「もしもの世界」へのエントリー作品　『　下　天　』</description>
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		<link>http://ginyushijin.dtiblog.com/blog-entry-141.html</link>
		<title>天下布部　第九幕</title>
		<description>翌朝、蟷螂探偵社。
数馬の携帯が鳴り、仮眠をとっていたソファから転げ落ちるように起きると、眠そうな声で答えた。

「はい、蟷螂です。」

眠さのあまり、ディスプレイに表示された名前さえ確認していなかった。

「蟷螂さん、桜木です。
　例のアドの研究所、今日事情を聞きに行きます。」
</description>
		<content:encoded><![CDATA[ 翌朝、蟷螂探偵社。
<br />数馬の携帯が鳴り、仮眠をとっていたソファから転げ落ちるように起きると、眠そうな声で答えた。
<br />
<br />「はい、蟷螂です。」
<br />
<br />眠さのあまり、ディスプレイに表示された名前さえ確認していなかった。
<br />
<br />「蟷螂さん、桜木です。
<br />　例のアドの研究所、今日事情を聞きに行きます。」
<br />
<br />「何か進展があったのか。」
<br />
<br />一瞬に眼が覚めたようだ。
<br />
<br />「蟷螂さんから聞いて、４・５日前からアドが怪しいんじゃないかと安藤さんにプッシュはしていたんです。
<br />　だけど何か煮え切らなくて・・・。
<br />　ところが昨晩、石川幹事長が一時拉致されたらしいんです。
<br />　本牧で所轄に保護されたんですけど、結局運転手１名射殺されてたんです。
<br />　で、山手署が事情聴取しようとしたんですけど本庁から横槍がはいって・・・。
<br />　現場ではみんなカンカンですよ。
<br />　人ひとりの命を何だと思ってるんだって。
<br />　そんな雰囲気だから、安藤さんが今のうちにちょっと行って置こうってことになったんです。」
<br />
<br />「そうか。
<br />　何時に行く。」
<br />
<br />「午後一に行くことにしました。
<br />　速水さんがそれしか予定がつかないって言うんで。」
<br />
<br />「昼になんか理由付けて、捜査車両で俺のところに寄ってくれ。
<br />　頼んだぞ。」
<br />
<br />そう言うと返事も聞かず電話を切った。
<br />　
<br />　　　　　　　　　　・
<br />　　　　　　　　　　・
<br />　　　　　　　　　　・
<br />
<br />ＡＤＯ　Ｃｏｒｐ．　藤沢研究所。
<br />安藤、速水、桜木を乗せた覆面パトカーが正門前に着くと、詰め所から警備員が二人歩み寄って来た。
<br />桜木が、
<br />
<br />「神奈川県警です。
<br />　寒川の不審遺体事件の件で・・・。」
<br />
<br />と言いかけると、横から速水が、
<br />
<br />「常田事務長にはアポイントを取ってあります。」
<br />
<br />と割り込んだ。
<br />
<br />「少々お待ちを。」
<br />
<br />２・３分して、
<br />
<br />「確認がとれました。
<br />　お入りください。
<br />　はいって右手に駐車場がありますので、空いているところに停めて、その正面にある建物の受付に声を掛けてください。」
<br />
<br />そう言うと、何トンもありそうな鉄の扉が、電動でゆっくり開いた。
<br />２０台ほど停められる駐車場には５台しか車が停められておらず、黒のＳＵＶはなかった。
<br />三人は車を降り、建物に入ろうとした時、桜木が
<br />
<br />「あっ、手帳を車に忘れちゃった。
<br />　ちょっと取って来ます。」
<br />
<br />一番奥に停めた車まで走って戻ると、トランクから上着を取り出して引き返した。
<br />二人は先に建物にはいっていた。
<br />
<br />しばらくすると、覆面パトカーのトランクが音も無く開き、人影が這い出すと車の陰に潜んで、静かにトランクを閉めた。
<br />数馬だった。
<br />
<br />監視塔の警備員の隙を伺いながら建物の脇に回りこむと、姿勢を低くして奥へ進んで行った。
<br />少しすると小窓を見つけ、その下で待った。
<br />５分ほど待っていると、小窓がわずかに開き、人の顔が覗いた。
<br />
<br />桜木だった。
<br />
<br />桜木は窓を精一杯開けて数馬を引き入れようとした。
<br />それでもギリギリやっと入れるくらいで、桜木が手を引っ張らなければ無利だったろう。
<br />
<br />「まったく無茶させないでくださいよ。
<br />　俺は一応警察官なんですからね。
<br />　それにこのトイレこそカメラはないけど、あとはあちこち監視カメラだらけですよ。」
<br />
<br />「そう思ったからトイレにしたんじゃないか。」
<br />
<br />「トイレに運良く窓があったからいいけど・・・。」
<br />
<br />「まっ、賭けだったけど、建物の作りってのはだいたい相場が決まってるからな。
<br />　じゃ、俺はしばらくここで様子見てから、この中調べるから帰っていいぞ。
<br />　そうだ、廊下とか建物の中の様子、判るだけメールで送ってくれ。」
<br />
<br />「判りました。
<br />　それからさっき言い忘れたけど、例のもう一人分の血痕。
<br />　ちょっとおかしいらしいです。
<br />　人間のもののようで、ちょっと違う部分もあって、ＤＮＡの数がふつうより多いらしいです。
<br />　まあ科捜研の同期の奴の話で、正式報告ではないですが。
<br />　とにかく気を付けてください。」
<br />
<br />そう言うと窓を閉めて、取っ手をハンカチで拭ってから、桜木はトイレを出て行った。
<br />
<br />
<br />
<br />天下布部　<a href="http://ginyushijin.dtiblog.com/blog-entry-142.html" title="第十幕">第十幕</a>につづく
<br />
<br />
<br />
<br /><a href="http://ginyushijin.9.dtiblog.com/blog-entry-142.html" >この節のつづき</a>
<br />
<br /><a href="http://ginyushijin.9.dtiblog.com/blog-entry-140.html" >この前の節</a>
<br />
<br /><a href="http://ginyushijin.9.dtiblog.com/blog-entry-132.html" >「天下布部」はじめから</a>
<br />
<br /><a href="http://ginyushijin.9.dtiblog.com/blog-entry-124.html" >「下天」はじめから</a>
<br />
<br /><a href="http://ginyushijin.9.dtiblog.com/blog-entry-85.html" >蟷螂探偵社　はじめから</a>
<br />
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<br /> ]]></content:encoded>
		<dc:subject>蟷螂探偵社</dc:subject>
		<dc:date>2009-07-10T01:30:15+09:00</dc:date>
		<dc:creator>銀遊私人</dc:creator>
		<dc:publisher>DTI-BLOG</dc:publisher>
	</item>
		<item rdf:about="http://ginyushijin.dtiblog.com/blog-entry-142.html">
		<link>http://ginyushijin.dtiblog.com/blog-entry-142.html</link>
		<title>天下布部　第十幕</title>
		<description>しばらくして、警察の三人はさしたる収穫も無く、帰路に着くことになった。

桜木がため息まじりに、

「安藤さん、車についてもとぼけられたし、収穫無しですね。」

「仕方なかろう、令状も無しだから家捜しする訳にもいかんからな。
　誰かさんが事前に連絡もしておいてくれていたようだし。」

</description>
		<content:encoded><![CDATA[ しばらくして、警察の三人はさしたる収穫も無く、帰路に着くことになった。
<br />
<br />桜木がため息まじりに、
<br />
<br />「安藤さん、車についてもとぼけられたし、収穫無しですね。」
<br />
<br />「仕方なかろう、令状も無しだから家捜しする訳にもいかんからな。
<br />　誰かさんが事前に連絡もしておいてくれていたようだし。」
<br />
<br />「な、何ですか、人聞きの悪い。
<br />　自分が捜査情報を漏らしたとでも言うんですか。」
<br />
<br />と、速水が噛み付いた。
<br />
<br />「いや、別に責めとらんよ。
<br />　ＡＤＯがＳＵＶを隠してくれたお陰で、そこが怪しいと確信が持てたしな。
<br />　そうだ、速水君は明日からＡＤＯ関係会社のすべての車両登録と所在確認をしてくれないか。」
<br />
<br />「自分ひとりでですか。
<br />　別に自分はあなたの部下とは思っていませんが。」
<br />
<br />「いやか。
<br />　うーん、困ったな。
<br />　じゃ捜査本部を立ち上げるよう総監に要望するか。
<br />　マスコミにリークするっていう方法もあるし・・・。」
<br />
<br />「判った。
<br />　やります。
<br />　やりゃあいいんでしょう。」
<br />
<br />数馬を残して覆面パトカーが外に出ると、あの重そうな鉄門が低い唸り声をあげながら閉まった。
<br />　
<br />　　　　　　　　　　・
<br />　　　　　　　　　　・
<br />　　　　　　　　　　・
<br />
<br />ＡＤＯの一般職員が皆帰宅した午後７時。
<br />阿木正和はひとり出社し、数馬が潜んだ建物に合鍵で入った。
<br />奥につづく長い通路を常夜灯の明かりだけで、カツカツと靴音を響かせながら歩いていた。
<br />
<br />中ほどでふと立ち止まると、
<br />
<br />「何者かな。
<br />　まさか空き巣や事務所荒らしじゃないだろう。
<br />　昼間、警察が寄ったと報告があったが、その関係か。」
<br />
<br />しばらく沈黙が続く。
<br />
<br />「答えないならそれでもいいが、警備を呼んで追い詰めるぞ。」
<br />
<br />「へー、感がいいんだな。」
<br />
<br />姿を見せず、数馬が答えた。
<br />
<br />「感・・・まあそんなもんか。
<br />　一応修練で会得したものだがな。」
<br />
<br />「俺は探偵だ。」
<br />
<br />「クライアントは。」
<br />
<br />「それは守秘義務ってものがあるからな。」
<br />
<br />「ふむ。
<br />　もしかしたらお前は困っているんじゃないか。
<br />　この敷地内のセキュリティは一見完璧だからな。
<br />　しかしこの中の人間だからと言って、すべてがお前に敵対するものとは限らない。
<br />　今は世の中も、この会社も、すべてが混沌の中にある。」
<br />
<br />「・・・俺は寒川の不審遺体事件を調べている。
<br />　真実が知りたくてやって来た。」
<br />
<br />「それを知ってどうする。
<br />　もっと大きな面倒や災厄が起きるかもしれないぞ。」
<br />
<br />「調べるのが俺の唯一の仕事だ。」
<br />
<br />「そうか。
<br />　・・・真面目だな。
<br />　そういう奴は嫌いじゃない。
<br />　そんなに知りたいのなら教えてやってもいいぞ。
<br />　俺のオフィスについて来い。
<br />　俺の後を辿れば監視カメラには引っかからない。」
<br />
<br />そう言うと阿木は壁に沿って歩き始めた。
<br />数馬は仕方なく、靴を手に持って１０メートルほど後方から付いて行った。
<br />阿木の後からひとつの部屋に入ると、まだ部屋は暗いままだった。
<br />後ろ手にドアを静かに閉めると、正面奥のデスクの後ろに座っていた阿木が、リモコンでライトを点けた。
<br />もう片方の手に握っていたサブマシンガンの銃口は数馬に向けられていた。
<br />
<br />「装填されているのはゴム弾のマガジンじゃない。
<br />　実弾だ。」
<br />
<br />「手を上げろ・・・ってことか。」
<br />
<br />数馬は軽く両手を開いて見せただけだった。
<br />
<br />「度胸がいいんだな。
<br />　何も恐いものがないのか。」
<br />
<br />「さあ・・・。」
<br />
<br />「ならこれから本当に恐いものを知ることになるかもな。
<br />　俺の名は阿木正和。
<br />　ここの統括責任者ですべてを知る立場にあるが、その実何の権限もない。
<br />　すべての決定は本部から降りてくる。
<br />
<br />　付け加えれば、俺は１５年前にある目的を持って、この組織に潜入した者だ。」
<br />
<br />「おいおい、初対面の男にそんな大事なこと言っていいのかい。」
<br />
<br />阿木はデスクにサブマシンガンを置いた。
<br />
<br />「俺は今、協力者を必要としている。
<br />　これから、この研究所の秘密に案内してやるが、嘘はつかないから信用してくれ。
<br />　普通の人間が聞いたら、信じることを拒否したくなるような内容だ。
<br />　だがあんたなら肝っ玉が据わっているようだから、きっと受け止められるだろう。」
<br />
<br />「そうか。
<br />　俺の名前は蟷螂数馬。
<br />　想像の通り、警察とも多少の引っかかりがある。
<br />　それから下川徹とも・・・。」
<br />
<br />「ん、下川徹。
<br />　そうか・・・それは済まない事をした。
<br />　ハプニングでここの警備の者が殺してしまったんだ。」
<br />
<br />「呆気ないほど正直だな。
<br />　あいつの死はそれほど小事か。」
<br />
<br />「すまないが、しかしまだこれから何十人、何百人いや何千何万と死ぬかもしれない。
<br />　それほど大きな災厄が待っていると言っても過言ではない。
<br />　俺もお前も生きていられる確率の方がはるかに小さいだろう。
<br />　覚悟を決めて、とりあえず振り返ることはやめてくれ。」
<br />
<br />「判った。
<br />　すべてが終わった段階で落とし前は考えよう。」
<br />
<br />「ＯＫ。
<br />　ではこの白衣を着て、ＩＤカードを付けてくれ。
<br />　これから研究棟に案内する。」
<br />
<br />５分後、二人は部屋を出て、常夜灯の明かりだけの通路をさらに奥に進んで行った。
<br />
<br />
<br />
<br />天下布部　<a href="http://ginyushijin.dtiblog.com/blog-entry-143.html" title="第十一幕">第十一幕</a>につづく
<br />
<br />
<br />
<br /><a href="http://ginyushijin.9.dtiblog.com/blog-entry-143.html" >この節のつづき</a>
<br />
<br /><a href="http://ginyushijin.9.dtiblog.com/blog-entry-141.html" >この前の節</a>
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		<dc:subject>蟷螂探偵社</dc:subject>
		<dc:date>2009-07-11T01:59:16+09:00</dc:date>
		<dc:creator>銀遊私人</dc:creator>
		<dc:publisher>DTI-BLOG</dc:publisher>
	</item>
		<item rdf:about="http://ginyushijin.dtiblog.com/blog-entry-143.html">
		<link>http://ginyushijin.dtiblog.com/blog-entry-143.html</link>
		<title>天下布部　第十一幕</title>
		<description>「この敷地の建物７棟はすべて地下通路でつながっている。」

そう言いながら阿木はその建物の地下にある配電室の変電器のボックスを開けた。
中は人ひとりがやっと通れる通路になっていた。
狭い入り口を抜けると中はすぐに広がり、さらに下に降りる階段に続いていた。

「その実、地上の建物はすべてダミーと言っていい。」
</description>
		<content:encoded><![CDATA[ 「この敷地の建物７棟はすべて地下通路でつながっている。」
<br />
<br />そう言いながら阿木はその建物の地下にある配電室の変電器のボックスを開けた。
<br />中は人ひとりがやっと通れる通路になっていた。
<br />狭い入り口を抜けると中はすぐに広がり、さらに下に降りる階段に続いていた。
<br />
<br />「その実、地上の建物はすべてダミーと言っていい。」
<br />
<br />かなり間を空けて阿木の話は続いた。
<br />
<br />「地下は５層の実験室になっている。」
<br />
<br />セキュリティの掛かったドアの前に辿り着いた。
<br />監視カメラが忙しなく首を振っている。
<br />
<br />「心配するな。
<br />　あまり気にすると怪しまれる。
<br />　俺と一緒ならとりあえず大丈夫だ。」
<br />
<br />阿木はＩＤカードと生体認証でセキュリティを解除した。
<br />中に入ると明るく清潔そうな空間が広がっていた。
<br />入り口脇の詰め所にいた警備員が立ち上がって敬礼した。
<br />阿木は軽く右手を上げて通り過ぎる。
<br />数馬も倣ってあとに続いた。
<br />
<br />「そこのウィンドウの下に見えるのが中央実験室だ。
<br />　１３年前にひとりの男が過去から甦った。」
<br />
<br />「何だって。」
<br />
<br />阿木は答えず、ただ笑ってみせた。
<br />
<br />「甦ったって言ったか。
<br />　誰が。
<br />　どうやって。」
<br />
<br />「それを話すのはまだ早いかな。
<br />　お前が生存し続けられれば、いずれ判る時が来るだろう。
<br />　ここはそれ以来言わば聖地で使われなくなっている。
<br />　今の問題はさらに下のフロアだ。」
<br />
<br />二人はエレベーターに乗り、さらに二つ下のフロアに出た。
<br />エレベーターの脇にサブマシンガンを腰だめに構えた警備員が配置されていた。
<br />廊下を少し進むとモニタールームと表示された部屋があった。
<br />阿木がセキュリティを解除して中に入る。
<br />中には三人の白衣を着た男が詰めていた。
<br />
<br />「あっ、阿木さん。
<br />　ご苦労様です。」
<br />
<br />「あぁ、ご苦労。
<br />　本社から新しく派遣された二宮さんだ。
<br />　よろしくな。」
<br />
<br />「二宮です。
<br />　よろしく。」
<br />
<br />数馬は調子良く合わせた。
<br />
<br />「よろしく。」
<br />
<br />「よろしく。」
<br />
<br />「みんな疲れたろう。
<br />　二宮さんへの説明は私がするから休憩室で３０分ほど休んで来ていいぞ。」
<br />
<br />「ありがとうございます。
<br />　では甘えて。」
<br />
<br />阿木と数馬を残し、あとの者は皆部屋から出て行った。
<br />部屋には３０ほどのモニターが埋め込まれていて、ひとつひとつ別の部屋を映し出していた。
<br />
<br />「何かまるで刑務所のようだな。」
<br />
<br />ひとつひとつの部屋にひとりづつ人が入っていた。
<br />寝てる者もあれば、忙しなく動き回る者もいる。
<br />拘束服を着せられている者もいた。
<br />
<br />「刑務所の方がどれだけましだか・・・。
<br />　この部屋は被験者を経過観察する部屋だ。」
<br />
<br />「何の被験者。」
<br />
<br />「ここでは随分前よりいろいろな研究をしてきた。
<br />　地上の施設では今もＵＦＯとかテレパシー、念動力などの実験もしている。
<br />　もっともそれは半分お遊びだが。
<br />　でもこの地下は違う。
<br />　本気で不老不死の研究をしている。
<br />　イモリの再生能力を知っているか。」
<br />
<br />「少しは。
<br />　オオサンショウオもそうだろう。」
<br />
<br />「オオサンショウオは再生スピードがかなり遅いそうだ。
<br />　迷信に近いと思ってもいいくらいに。」
<br />
<br />「何だ、『悪魔の手毬歌』のハンザキはガセだったか。」
<br />
<br />「イモリは脊椎動物でありながら、その再生能力は驚くべきものがある。
<br />　その遺伝子をヒトに埋め込んで、自己再生出来る人間を作ろうとしているんだ。」
<br />
<br />「馬鹿な。
<br />　そんなことして何になるんだ。」
<br />
<br />「兵士だよ。
<br />　その不死兵団を前線に送り込めば、戦力の消耗が減り補充の必要が無くなる。
<br />　さらに経験値は上がる一方になるので、無敵軍隊になるだろう。
<br />　そして我が首領も不老不死の身体を切望している。」
<br />
<br />「そんなことが本当に可能なのか。」
<br />
<br />「まだ個体差が激しいが、脳・脊椎・心臓に致命傷がなければ９０％は回復、欠落した四肢も再生している。
<br />　しかしまだまだ完成はしていない。
<br />　使える人間に出来る歩留まりはまだ１０％以下だ。
<br />　ひとつには再生過程で大量のＤＮＡを必要とする。
<br />　常に血液アンプルを用意して摂取できるようにしているのだが、渇きを抑えきれず仲間や他の人間を襲って、生き血を啜ろうとする者が５０％ほど発生する。」
<br />
<br />「バンパイヤを作ったのか。
<br />　寒川の不審遺体事件はこれか。」
<br />
<br />「そうだ。
<br />　あの数日前、一人の被験者が警備員を襲ってまんまと研究所から脱出した。
<br />　我々は何か起こす前に見つけようと必死に探したが、見つけられたのは丁度一般人を襲って血を吸っているところだった。
<br />　警備員は被験者を撃って捕らえ、ここに連れ戻した。
<br />　彼だよ。」
<br />
<br />そう言って阿木はひとつのモニターを指差した。
<br />モニターの中の男は上半身裸で、敵意の籠った眼差しを監視カメラに向けていたが、その身体に銃創らしきものは見当たらなかった。
<br />
<br />「それにもうひとつ問題がある。」
<br />
<br />
<br />
<br />天下布部　<a href="http://ginyushijin.dtiblog.com/blog-entry-144.html" title="第十二幕">第十二幕</a>につづく
<br />
<br />
<br />
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<br />
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<br />
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<br />
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		<dc:subject>蟷螂探偵社</dc:subject>
		<dc:date>2009-07-19T00:39:57+09:00</dc:date>
		<dc:creator>銀遊私人</dc:creator>
		<dc:publisher>DTI-BLOG</dc:publisher>
	</item>
		<item rdf:about="http://ginyushijin.dtiblog.com/blog-entry-144.html">
		<link>http://ginyushijin.dtiblog.com/blog-entry-144.html</link>
		<title>天下布部　第十二幕</title>
		<description>「渇きは戦場、特に最前線ではさして問題とは考えていない。
　血を調達することは戦果を上げることだからな。
　彼のように脱走するほどのポテンシャルを持つと言うことは、むしろ施術の成功例とも言える。
　歩留まりを悪くしていると言うのは、こっちの奴の方だ。」

阿木が指差す先のモニターには、ベッドの上で壁に寄りかかり、ただ虚空を見つめ</description>
		<content:encoded><![CDATA[ 「渇きは戦場、特に最前線ではさして問題とは考えていない。
<br />　血を調達することは戦果を上げることだからな。
<br />　彼のように脱走するほどのポテンシャルを持つと言うことは、むしろ施術の成功例とも言える。
<br />　歩留まりを悪くしていると言うのは、こっちの奴の方だ。」
<br />
<br />阿木が指差す先のモニターには、ベッドの上で壁に寄りかかり、ただ虚空を見つめる男が映っていた。
<br />
<br />「５０％を越す確率でこのような状態になる。
<br />　生体は確かに再生するのだが、スピードも極端に遅くなる。
<br />　理由はまだ確認されていないし、それもひとつとは限らない。
<br />　ただひとつ推論として上げられているのが、精神と肉体のギャップだ。
<br />　身体は超人となったのだが、精神がそれを受け入れず、通常なら致命傷となるような傷を負うと、精神が死を受け入れてしまい廃人となる。
<br />　そのような生ける屍が、最下層のフロアに１００を超えて収容されている。」
<br />
<br />「・・・狂ってる。」
<br />
<br />「確かにな。
<br />　しかし歩留まりが悪いとは言え、バンパイア戦士は生産されつづけ、着実に増えている。
<br />　今のうちこのプロジェクトを破壊しないととんでもないことになる。
<br />　　　　・
<br />　　　　・
<br />　　　　・
<br />　それをお前にやって欲しい。」
<br />
<br />「はぁ・・・自分でやれよ。
<br />　これを公にすればいいだけじゃないか。
<br />　いかに相手が与党の幹事長だからと言って、さすがに警察も動くだろう。」
<br />
<br />「俺はまだ石川幹事長を追い詰めるつもりはない。
<br />　まだ彼にも俺にも役回りはある。」
<br />
<br />「じゃあ、どうやってやれってんだ。」
<br />
<br />「破壊工作だよ。
<br />　あとはそれしかないだろう。
<br />　とりあえず一回壊してしまえば、世間の耳目が集まって、再開はし難いだろう。」
<br />
<br />「待てよ、俺は元刑事で射撃訓練くらいは受けているが、そんなこと出来る訳ないだろう。」
<br />
<br />「立派にここに忍び込んだじゃないか。
<br />　素質は充分にあるよ。
<br />　いやなら仕方ないが俺の助けがなければお前はここから出られない。
<br />　そうだバンパイアにしてやろうか。
<br />　それでほかのバンパイアを殺してくれても構わないぞ。」
<br />
<br />「くっ・・・・・。」
<br />　
<br />　　　　　　　　　　・
<br />　　　　　　　　　　・
<br />　　　　　　　　　　・
<br />
<br />日進党幹事長室。
<br />石川巧幹事長はアドホールディングス相談役　三枝繁治の訪問を受けていた。
<br />
<br />「殿、ご無沙汰してしまいました。」
<br />
<br />「蘭丸、特に変わりはないか。」
<br />
<br />二人だけの時は、そう呼び合っていた。
<br />
<br />「お陰様で私の方はゆっくりさせていただいております。
<br />　しかし、殿は拉致されかけたそうですな。
<br />　ご無事でしたか。」
<br />
<br />「案ずることはない。
<br />　面白かったぞ。
<br />　奴らは風魔一族だそうな。
<br />　いろいろ情報ももらった。
<br />　確認はまだだがな。」
<br />
<br />「しかし運転手が射殺されたとか。」
<br />
<br />「風魔が言うには、あいつは伊賀忍者だそうだ。
<br />　俺を監視していたのだと。」
<br />
<br />「うーむ。
<br />　殿は伊賀からは恨まれておりますからな。
<br />　しかし風魔や伊賀だのがまだ生き残っていたと思いませんでした。
<br />　どうやって伊賀は殿のことを察知したのでしょう。」
<br />
<br />「うむ、家康が関わっていたらしい。
<br />　あいつは油断ならんと思っていた。
<br />　そしてどうやら光秀もあの黄泉の剣を用いて、我等を追って来ているらしい。」
<br />
<br />「何と・・・。
<br />　それで光秀は何処に。」
<br />
<br />「それはまだ判らん。
<br />　風魔も探しているようだが、我等の方でも手を尽くしてくれ。
<br />　放って置いたら足を掬われかねない。
<br />　もしかしたら伊賀はもう探し出しているかもしれない。」
<br />
<br />「かしこまりました。」
<br />
<br />「それから風魔は、黄泉の剣も伊賀が持っていると言っていたぞ。」
<br />
<br />「剣を持っていたからと言って、どうと言うことはないでしょう。
<br />　誰が時を飛びたいと思いますか。」
<br />
<br />「一回飛んだ者はそう思うだろうが、初めての者はそうでもないだろう。
<br />　それに今の世界を奪うことはなかなかに難しい。
<br />　もう一度蘭丸に飛んでもらって、わしを迎えて貰おうと思ったのだが・・・。」
<br />
<br />「滅相もない。
<br />　もう勘弁していただきとうございます。」
<br />
<br />「ははは、やっぱり駄目か。」
<br />
<br />「殿にはまだ例のプロジェクトがお有りになるではありませんか。
<br />　あれで不老不死の身体を得れば良いのでは。」
<br />
<br />「それがまだ完全ではないのよ。
<br />　どうも肉体は死なんでも、精神が死んでしまうケースがかなりあるらしい。
<br />　そこをクリアしなければ、安心して使えん。」
<br />
<br />「ふむ。
<br />　殿、・・・そこは黄泉の剣が使えますまいか。
<br />　黄泉の剣は言わば、肉体が滅んでも精神を留まらせる剣。
<br />　ＡＤＯの遺伝子操作を施した肉体を、黄泉の剣で刺せば完全な不死人間になるのでは。
<br />　この蘭丸がそういうのだから間違いありません。」
<br />
<br />「なるほど、・・・そうか。
<br />　ならば風魔に早急に黄泉の剣を確保させないとな。
<br />　よし、これから藤沢研究所に行って意見を聞いてみよう。」
<br />
<br />石川はデスクのインターホンに手を伸ばした。
<br />
<br />「神崎君、車を用意してくれ。
<br />　ＡＤＯの藤沢研究所に行く。」
<br />
<br />「幹事長、警察庁から外出の自粛要請が来ておりますが。」
<br />
<br />「構わん。
<br />　ごたごた言ったら公安委員長に、次の公認はないぞと脅しておけ。」
<br />
<br />「判りました。」
<br />
<br />日付が変わる頃、幹事長専用車は永田町の日進党本部をゆっくりと出て行った。
<br />
<br />
<br />
<br />天下布部　第十三幕につづく
<br />
<br />
<br />
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		<dc:subject>蟷螂探偵社</dc:subject>
		<dc:date>2009-07-21T01:36:50+09:00</dc:date>
		<dc:creator>銀遊私人</dc:creator>
		<dc:publisher>DTI-BLOG</dc:publisher>
	</item>
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		<title>河童</title>
		<description>「お父さん、何でいつもポケットに胡桃を入れてるの。」

八月はじめの日曜日、小学５年生のたかしは、昼食後居間で高校野球の中継を見ていた父の圭吾に聞いてみた。

「あん、これか。」

答えがなかなか返って来ない。
台所で片付けをしていた母の梓が笑いながら、

「昔はいつも二つ</description>
		<content:encoded><![CDATA[ 「お父さん、何でいつもポケットに胡桃を入れてるの。」
<br />
<br />八月はじめの日曜日、小学５年生のたかしは、昼食後居間で高校野球の中継を見ていた父の圭吾に聞いてみた。
<br />
<br />「あん、これか。」
<br />
<br />答えがなかなか返って来ない。
<br />台所で片付けをしていた母の梓が笑いながら、
<br />
<br />「昔はいつも二つ持っていて、手持ち無沙汰だとガリガリ擦り合わせていたのよ。
<br />　たかしが産まれたから行儀の悪いことはやめてねって言ったの。
<br />　ガリガリはやめてくれたのだけど、それからもひとつはいつも持ち歩いているの。
<br />　訳わからないのよねー。」
<br />
<br />「へー、何で何で。」
<br />
<br />たかしが畳み掛けると、
<br />
<br />「んー、これはおまじないというか、俺の命の恩人ていうか・・・
<br />
<br />　去年死んだ源三じいちゃんが、よく河童の話を俺にしてたんだ。」
<br />
<br />「岩手のひいおじいちゃんよ、たかし。」
<br />
<br />「判ってるよ。
<br />　解説しなくていいよ。」
<br />
<br />「まあ・・・。」
<br />
<br />「ははは。
<br />　それで河童という奴は、川べりを歩いている人を水の中に引き込むと、尻の穴から手を突っ込んで、尻小玉というのを引っこ抜いて食べてしまうと言うんだ。
<br />　尻小玉を抜かれた人間はもちろん死んでしまう。
<br />
<br />　岩手の家のそばにも川があったろう。
<br />　あの川でも河童を見たことがあると、いつも話してた。
<br />　だから俺は恐くなって、どうしたら尻小玉を抜かれずに済むか、必死に考えたんだ。
<br />　それでいつもポケットに胡桃を入れておくことにしたんだ。
<br />　水の中に引きずり込まれたら、すぐにポケットから胡桃を取り出して尻の穴のところにあてがおうと思ってな。
<br />　そうすればブロックになるし、もしかしたら河童が胡桃を尻小玉と勘違いして、俺を放すんじゃないかと考えてな。
<br />
<br />　ちょうど今のたかしと同じ歳のころ、川にザリガニを獲りに行った時、足を滑らせて川に落ちてしまったんだ。
<br />
<br />　焦ったぜ。
<br />　もがいてもがいても、なかなか浮き上がらない。
<br />　足の方を見たら、緑色のみずかきのついた手が、俺の足首を引っ張っていたんだ。
<br />
<br />　『まずい。』
<br />
<br />　って思って、慌ててポケットから胡桃を取り出して、パンツに手を突っ込み、尻に胡桃を挟んだ。
<br />　間一髪、後から河童が迫って来て、半ズボンの下からそのヌメヌメした手を入れてくると、胡桃を引き抜いた。
<br />　そうして今度は俺の正面に回ると、ニヤリと気味悪く笑って、川底深く消えて行ったんだ。
<br />
<br />　ようやく岸に辿り着き、何とか助かったがあの時の恐さ、気味悪さは二度と忘れない。」
<br />
<br />「嘘だー。
<br />　河童なんている訳ないじゃん。」
<br />
<br />「何を言うか、本当なんだぞ。
<br />　だからそのあとも、こうしていつも胡桃を持っているんじゃないか。」
<br />
<br />「でもここら辺、川はないじゃんか。」
<br />
<br />「いや、川はあるんだぞ。
<br />　暗渠と言って、道路などの下に隠されてしまっているがな。」
<br />
<br />「へー、そうなの。
<br />　でもそんな川に河童はいないでしょ。」
<br />
<br />「そうだなー。
<br />
<br />　それより今日は天満宮のお祭だろ。
<br />　小遣いやるから遊びに行ってくれば。」
<br />
<br />「父さんと母さんは行かないの。」
<br />
<br />「夜、行こうと思うがちょっと雲行きが怪しいからな。
<br />　雨に降られないうちに、ちょっと遊んどけ。」
<br />
<br />「ありがとう。
<br />　そうだ、それよりも今年の夏休み、岩手の田舎に行かないって本当。」
<br />
<br />「母さんが言ってたか。
<br />　今のところそのつもり何だが。
<br />　まあ、もうちょっと考えるよ。
<br />　ほい、もう千円やろう。」
<br />
<br />たかしは２千円を握りしめて、家を飛び出して行った。
<br />
<br />「あなた、今年は源三おじいちゃんの新盆でしょ。
<br />　帰らなきゃいけないんじゃないの。」
<br />
<br />「んー、しかし親父とは昔からそりが合わないしなー。
<br />　兄貴が帰って、うまいことやってくれるだろう。」
<br />
<br />
<br />
<br />天満宮はたかしの家から、鉄道のガードを潜って、さらにだらだらと５００ｍほど坂を登った高台にあった。
<br />鳥居を抜けた参道には、露店がたくさん準備をしていて、いくつかは営業をはじめていた。
<br />たかしがどれからやろうかと、見比べながら歩いていると、
<br />
<br />「圭、圭。」
<br />
<br />と呼びかける当てくじ屋さんがいた。
<br />
<br />「源三・・・じいちゃん・・・。
<br />　・・・にしちゃあ、若いか。」
<br />
<br />たかしが小さな、自信無げな声で話すも、まったく耳に入らないようで、
<br />
<br />「あてくじやって行かんか。
<br />　きっといいのが当たるぞう。」
<br />
<br />「そう・・・。
<br />　じゃ、このピストル当てやろうかな。」
<br />
<br />「それかー、当たりそうもないな。」
<br />
<br />「じゃ、このショック当ては。」
<br />
<br />「それかー、それも当たりそうもないな。」
<br />
<br />「何だよー、じゃあこのスーパーボール当ては。」
<br />
<br />「おお、それは当たりそうじゃ。
<br />　それにしなさい。
<br />　はい、１００円だよ。」
<br />
<br />「おつり、頂戴。」
<br />
<br />そう言って千円札を渡すと、くじを１本引いた。
<br />
<br />「はい、８番、大当たりぃ。」
<br />
<br />直径５ｃｍくらいの真っ赤なスーパーボールだった。
<br />
<br />「何だ、これで大当たりなの。
<br />　中くらいじゃん。」
<br />
<br />「いやいや、大当たりだよ。」
<br />
<br />たかしはスーパーボールをポケットに捻じ込むと、不貞腐れてその場を離れた。
<br />
<br />本殿まで行ってお参りし、射的とヨーヨー釣りをして、綿菓子を食べながら戻ると、さっきの当てくじ屋はもう無かった。
<br />
<br />「何だ、もう店じまいしたのか。
<br />　やっぱり詐欺だな。」
<br />
<br />その時、ポツッとたけしの頬に雨粒が当たった。
<br />
<br />大粒の雨で、あっという間にザーッと本降りになった。
<br />最近、ぐっと増えたスコールと言っていい大雨だった。
<br />露店は慌てて濡れそうなものを引っ込めている。
<br />たけしの綿菓子も雨に打たれてあっという間にしぼんでしまった。
<br />
<br />たけしは濡れるのを構わず、早足で家に戻ろうとする。
<br />雨に煙って、前もよく見えないくらいだった。
<br />
<br />坂を、雨水が川のようになって、流れていた。
<br />ガード手前まで来ると、すでにガードの下に結構な雨水が溜まって、渦を巻いていた。
<br />
<br />天満宮の方に戻ろうと考えた時、脇の側溝の蓋や、道路にあったマンホールの蓋が水圧で勢いよく持ち上がり、雨水が水柱となって吹き上がった。
<br />圧倒的な水量に足をすくわれ、ヨーヨーも射的の景品も手放し、たかしはガード下に流された。
<br />
<br />ゴーっと低い音だけが耳で唸っている薄暗い水の中、たかしは自分の足を緑色のみずかきのついた手が掴んでいるのが見えた。
<br />
<br />『河童。』
<br />
<br />たかしは必死にもがいたが、その手の力はとても強く一向に離れない。
<br />息も吐き出してしまい、薄れ行く意識の中でふと思いついた。
<br />
<br />『スーパーボールだ。』
<br />
<br />右手でポケットをまさぐるとスーパーボールを取り出し、パンツの中に手を突っ込んでお尻の穴のところにあてがった。
<br />間一髪、下から河童が迫って来て、半ズボンの下からそのヌメヌメした手を入れてくると、スーパーボールを引き抜いた。
<br />そうして今度はたかしの正面に回ると、その真っ赤なスーパーボールをたかしにこれ見よがしに見せて、ニヤリと気味悪く笑うと水底に消えて行った。
<br />たかしは少し安堵したが、もう浮き上がろうとする力は残っていなかった。
<br />
<br />しかし次の瞬間、たかしの手が引かれた。
<br />
<br />
<br />
<br />「あなた、たかし大丈夫。」
<br />
<br />梓が差し掛ける傘の中、
<br />たかしは圭吾に背負われて、自宅に向かっていた。
<br />
<br />「ああ、咽ているくらいだから、そんなに水は飲んでいないだろう。
<br />　なあ、たかし。
<br />　しかしびっくりしたぞう。
<br />　心配になって見に来たら溺れてるんだからな。
<br />　しかし、こんな雨ははじめてだ。
<br />　都会も危険がいっぱいなんだなぁ。」
<br />
<br />「河童・・・河童・・・。」
<br />
<br />「ん、河童が出たか。
<br />　よく助かったな。」
<br />
<br />「源じい・・・スーパーボール・・・。」
<br />
<br />「そうか、そうか。
<br />　あとでゆっくり聞くよ。」
<br />
<br />たかしは安心して、目を瞑った。
<br />
<br />「梓、やっぱり岩手に行こうか。」
<br />
<br />「どうしたの、急に。」
<br />
<br />「いや、思い出したんだよ。
<br />　俺もあの日、親父に背負われて家に帰ったんだ。
<br />　昔話をしたくなった。
<br />　あの日、何がどうなったのか、ちゃんと聞いて無かったしな。」
<br />
<br />
<br />
<br />『　河　童　』　了
<br />
<br />
<br />
<br />『　河　童　』おもしろいと思っていただけたら、
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		<dc:subject>ショートショート</dc:subject>
		<dc:date>2009-08-21T11:10:06+09:00</dc:date>
		<dc:creator>銀遊私人</dc:creator>
		<dc:publisher>DTI-BLOG</dc:publisher>
	</item>
	</rdf:RDF>